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東京高等裁判所 平成5年(ラ)569号 決定

抗告人

源田明一

主文

一  原決定中、原決定別紙請求債権目録記載(二)の請求債権に関する部分を取り消す。

二  本件配当要求申立事件(基本事件平成五年(ル)第五六七号債権強制執行事件)中、右取消に係る部分を東京地方裁判所に差し戻す。

理由

一  本件抗告の趣旨は主文と同趣旨であると理解され、抗告の理由は別紙「抗告の理由」に記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

1  一件記録によれば、以下の事実が認められる。

(債務名義の存在)

① 債権者・抗告人(以下単に「抗告人」という。)と申立外債務者・有限会社北斗運輸(旧商号時代の有限会社陽明運輸、以下単に、「債務者」という。)間には、昭和五六年一一月一〇日東京法務局所属公証人齋藤壽作成による昭和五六年第八二八号債務弁済契約公正証書(以下「本件公正証書」という。)の執行力ある正本に基づく債務名義が成立しているところ、右公正証書正本には、「債務者は抗告人に対して原決定別紙約束手形目録記載の約束手形(以下「本件手形」という。)の手形債権元本一〇〇〇万円及びこれに対する昭和五六年九月二一日から完済に至るまで年三割の割合による約定遅延損害金を支払う。」旨の記載があること。

② 一方、抗告人と債務者間には、本件手形について、東京地方裁判所八王子支部昭和五六年(手ワ)第二〇六号約束手形金請求事件(以下「本件手形事件」という。)における昭和五六年一一月二六日に同裁判所同支部により言渡され確定した判決(以下「本件手形判決」という。)があり、その執行力ある正本に基づく債務名義が成立しているところ、右判決正本には、「債務者は抗告人に対し、本件手形元金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和五六年九月二〇日から完済に至るまで年六分の割合による金員(法定利息)を支払え。」と表示されていること。

(差押執行と配当要求)

① 抗告人は、本件手形事件の執行力ある判決正本に基づき、債務者が申立外第三債務者銀行に対して有する預金債権に対して、東京地方裁判所八王子支部平成五年(ル)第五六七号債権差押命令(以下「本件差押命令」という。)を得て差押執行をなし(以下「本件基本事件」という。)たこと。

② その後抗告人は、本件基本事件に対し、平成五年(日)第八一六号をもって配当要求の申立(本件配当要求申立)をし本件基本事件記録に添付されたこと。本件配当要求申立に係る請求債権とされているのは、本件公正証書の執行力ある正本に表示された債権の一部である原決定別紙請求債権目録(二)記載の債権、すなわち、「本件手形債権元本一〇〇〇万円の内金九七五万七六九二円に対する弁済日の翌日である昭和五六年九月二一日から平成四年九月二〇日まで(一一年間)年二四パーセント(本件公正証書による約定損害金年三〇パーセントから本件手形判決による法定利息年六パーセントを控除した後の年利率二四パーセントと解される。)の割合による損害金二五七六万〇三〇六円」(以下「本件請求債権」という。)と限定された部分であること。

(原審裁判所の判断)

これに対し、原審裁判所は、本件配当申立事件における抗告人の配当要求に係る請求債権は、原決定別紙請求債権目録記載の請求債権のうちの同目録(二)記載の請求債権、すなわち、「本件手形債権元金一〇〇〇万円の内金九七五万七六九二円に対する昭和五六年九月二一日から平成四年九月二〇日まで(一一年間)年二四パーセントの割合により計算された金員合計金二五七六万〇三〇六円の請求債権」については、本件差押命令に係る請求債権たる本件手形判決の執行力ある正本に表示された「本件手形金元金一〇〇〇万円の内金九七五万七六九二円に対する昭和五六年九月二〇日から平成四年九月一九日まで年六分の割合による法定利息の残金三四〇万一九四二円及び右元金の内金九七五万一四五三円に対する平成四年九月二〇日から平成五年三月三一日までの年六分の割合による法定利息三〇万八九二三円」と訴訟物が同じであるから、その範囲で後に成立した本件手形判決に基づく債務名義により先に成立した本件公正証書に基づく債務名義が当然排除されているものと認められるとして、本件請求債権部分について配当要求の要件を具備しないものであるから、右債権部分についての配当要求の申立てを却下したこと。

2  しかしながら、当裁判所は、同一請求権について複数の新旧債務名義が競合している場合であっても、先に成立した旧債務名義(本件の場合は本件公正証書に基づく債務名義)がその後に成立した新債務名義(本件の場合は本件手形判決正本に基づく債務名義)により当然に失効するものではなく、新旧債務名義とも有効に存在するものとして、これらいずれの債務名義に基づく執行も執行法上適法であって、それがいかなる意味においても執行法上違法な執行になるということはできないものと解するを相当とするものである。そうすると、これと異なる見解に立ち、後に成立した本件手形判決正本に基づく新債務名義の存在をもって、先に成立した本件公正証書正本に基づく旧債務名義の効力を否定する見解を採り、これを前提として、本件配当要求申立てに係る請求債権に対する配当を決める前の段階で、本件請求債権はそもそも配当要求の要件としての執行力ある債務名義を有する債権ではないとして、本件配当要求の申立てを却下した原審裁判所の判断は、その余の点を判断するまでもなく是認することができない。

この点についての抗告人の主張は、その理由があるものとして採用することができる。

三  よって、原決定中、本件請求債権に関する配当要求申立て却下部分を取り消し、右取消しに係る部分につきなお審理を尽くさせるため、この部分を東京地方裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官宍戸達德 裁判官伊藤瑩子 裁判官福島節男)

別紙〈省略〉

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